一の宮の家01/SE構法混構造のシンプルモダンな家

  • 所 在 地 :静岡県富士市
  • 竣  工:2007年6月
  • 構  造:RC造+木造SE構法 地下1階地上2階建て
  • 延床面積:162.18㎡ (49.06坪)
  • 敷地面積:386.08㎡ (116.78坪)
  • 備  考:RC打ち放し 蓄熱式温水床暖房 

 

住みながら建てかえる母の家

これは、実家を建て替える母と祖母の家物語です。中学生のときに自分で家を設計したいと思い立つ。大学時代のスケッチ、設計事務所に就職してから父と本格的に計画した事もある。今思えば昔の設計は明らかに力量不足。まだ先と夢を語っているうちに、祖父、父が相次いで亡くなった。それから早十三年が過ぎ母から家づくりを依頼された。

祖母は九十歳(計画当時)元気ではあるが、さすが年相応の体力になってきて母があせった。「自分と祖母の空間だけ先につくってよ」と注文。そこで一番頭を悩ましたのは、仮住まいだった。祖母は「あたしゃ仮住まいなんていやだよ」この年で外には住めないと言い出した。言い出したらテコでも動かない。

高齢者にとって家づくりは大変エネルギーがいるから、私も母も「住みながら建てかえる」事を模索した。現在の家を壊さずに、残っている土地に計画する事が、絶対条件となった。増築ではなく、引越ししたら旧家は取り壊す。その解体も視野に入れたアプローチ、構造、施工方法、そして将来の二世帯住宅これら諸条件が建築家に課せられた使命でした。

子供の頃感じた風の道

敷地は百十六坪あるといっても、旧家の建っている所以外は、富士山の溶岩が見えている凸凹の庭だった。全面道路は坂道で道路の方が低く敷地とは二mの段差がある。道路斜線が厳しく道路際には建てられない。

そこで目をつけたのが旧家の道路側の十四畳ほどの客間だった部分。そこを解体すれば残った家で十分生活でき必要な土地が確保できた。後は、富士山の溶岩掘りと旧家を完成後どうやって解体するか考えるだけだ。こうした発想から将来増築可能なように南側に重機が入る通路を確保した。複雑な敷地形状と融和した建築が設計できたと思っている。

そして、新築の建つ位置は南北の風道があり、富士山へ向かう海風が、敷地内でも一番通るところだという事を、子供の頃から肌で感じてきた。この風の道を家に取り入れることにした。

母からの注文

Q1.祖母のため住みながら建てかえて!建築家なんだから、そのぐらいできるでしょ。
A 1.生活に支障のない旧家の一部を解体して、敷地の道路側にコンパクトに計画。新築ができたところで 引越して残りの旧家を解体する。大きく空いた跡地で畑をはじめる事を提案。

Q 2.私はM邸(過去に2世帯住宅で設計した家)がいい。
A 2.スープの冷めない距離が特徴のM邸のように、将来2世帯に増築する時は、畑とした敷地中央を中庭として建物が囲う、付かず離れずの距離を保てる配置計画にした。

Q 3.コンクリート打放しがいい。
A 3.予算的に全面RC造とはいかなかったので、車庫と道路境界塀とバルコニー塀を打放しとして強調した。

Q 4.寝室は別にしたいが、夜、心配だから祖母の気配を感じる事ができるように。
A 4.1 5畳ほどの空間を日中はひと部屋として使い、寝る時は真ん中をふすまで仕切り、母、祖母それぞれの 個室となる。祖母の部屋からは直接トイレに行けるようにした。

シンボルツリーと有機的建築

玄関アプローチに山で育った樹齢20年の自然樹形のサルスベリを植えました。建物と一体になったパティオの木は、道行く人を楽しませ、1階、2階の各部屋や浴室のトップライトから、様々な表情を見せてくれます。幹の樹形を眺め、上部に咲く花を楽しむ。自然と身近に接する仕掛けが有機的建築につながります。


設計から完成までを ブログ「建築家自邸物語」 で紹介しています。

2020年10月05日